狂人の如く

16時前。出発前に「西新宿の親父の唄」(長渕 剛)を二回聞いた。「やるなら今しかねえ」というフレーズを再三口ずさむ。
車で家を出る。腕が震えている。いつも以上に注意して運転した。コンビニの駐車場に車を停めて、コンビニに電話。番号がばれているから非通知で掛けた。三回コールくらいであっさり掛かる。

ヒステリー店長(以下、HTと記す)「はい○○店の○○です」
俺「あー俺、○○ですけど今から給料貰いに行ってもいいですか」
HT「はい(明らかに事務的な冷徹なトーン)」
あまりにもあっさりしてるので質問を繰り返す。
俺「行っていいんですか」
HT「はい(やはり冷徹なトーン)」

これを機に俺は金属バットを持ってコンビニに入った。
控え室に直行。其処にはオーナーが存在していた。HTは店内に留まっていやがる。

オーナー「えっ、なにそのバット?」
俺「別にいいじゃないですか」

金属バットを持ち歩くだけでは銃刀法違反にはもちろんならない。そりゃスポーツで使うものですし。しかし、棒的なものを持ち歩くに当たって注意すべき点はある。振り回したり、振り回す仕草、予告をしたら犯罪にあたり、社会的敗者の道へ進むことになるから細心の注意が必要だ。
しかしオーナーがいるのは想定外だった。俺のシミュレーションではヒステリーと一対一でやる予定だったからだ。だが、もしかしたらヒステリーとサシでバットを持った状況だと場合によっては自分でも取り返しのつかないことをする可能性もあったわけだから結果的に良かったのかもしれない。

オーナー「普通は辞めるときに2週間前に届けないと駄目なんですよ」
俺「いや、店長がぶちきれたから…(以下ものすごい略)」
オーナー「人間というのはいろんな人がいるから…(以下ものすごい略)」
オーナー「でも契約は守ってもらわないと」
俺「はああ」

駄目だ。このおっさん、契約契約で俺を攻めてきやがる。すると、

HT「あっ、オーナー」

急にHTが登場。相変わらず憮然とした顔をしている。

HT「灰皿の件もね」

といって俺の持っているバットを見たらレジに行った。その後、十分くらいオーナーと話したのだが、結局、ヒステリーは控え室にやってこなかった。びびっていやがるのか。

オーナー「ああそうそう、灰皿蹴って壊したんでしょ?」
俺「いやいやそれは店長がぶっ壊したんですよ。俺が某作業をしてたときに店長が怒って蹴ったんです」

ここは想定内の質問。俺は監視カメラのない用具入れで灰皿を蹴っており、証拠など無い。もちろん証人もそのときはいなかった。ヒステリー野郎の思うままにいくかというのだ。

オーナー「ああそう…じゃあもういい。給料はこれ…(以下略)」

たんたんと話が進むに連れて俺に遊び心が出てきた。

「いいから店長呼んでくれねえか!」

と叫んだ。

オーナー「いやいや別に呼ばなくてもいいじゃないか…」

明らかにオーナー、動揺している。バイトの人がこっちを覗き込んできた。ヒステリーは明らかに聞こえているだろうに監視カメラで見る限り、ずっとレジで突っ立っていやがる。
こっちからHTに近づけばいいことなのだが、やはり、いつもと違う不自然な環境下、棒を持っていては何を犯すか分からない自分がいたので、社会的敗者になる行動だけは避けたかったので結局、HTのことは放っといた。HTは俺を異常者か何かかと恐れて客が大してこないレジへ逃げ惑っていたということだろう。奴に謝らすことができなかったのは残念だ。
無事、給料を手に入れて店を出た。狂人のふりをするのは疲れる。