懲役下穿き制度

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行かなければ重罪。なら行くしかない。
夜8時40分、指定された市民体育館に到着。
〝むわ〟
会場には二十数名の下穿き員がいた。地面を凝視して待っていると時間の9時にあっさりとなった。
鈴乃助「(集まった連中…。普通の感じの奴が3割くらい、7割は陰気な感じだ…。無理も無い)」
〝ぞろぞろぞろ〟…
係員らしき人物が現れた。
係員「お待たせしました。予定通り、30名出揃いましたようですね。あなた方には女子中学生のパンツとなって一年やりおおしていただきます」
「おい!正気か!人間をパンツにするなんて!」
参加者の誰かが怒鳴り散らした。
「お引取りください。これ以上騒ぎますと徴兵拒否者として重罪に致しかねません。皆様には粛々とパンツになって頂きます」
鈴乃助「(馬鹿か。係員を怒鳴ってどうする…。重罪になれば最悪死刑になるだろうが…。こうなったら一年間、とにかく楽しむしかない…。そうさ、女子中学生の股間にいるだけなら命を縮めることはない…)」
係員「パンツライトであなた方をパンツにするのですが、当然履かれるのは中学生ですのでこちらでそれなりに規定させてもらいます。まず種別ですが、紐とTバックは中学生らしからぬ物品ですのでオーソドックスなパンツのみとさせていただきます。ですので皆様には白か黒、いずれかのパンツの色に決めてもらいます。順番に口頭でお願いします」
むざ…むざむざ…
「待ってくれ!肝心の、肝心の履く相手は決められんのか!」
「二色だけってなめてんのか!?」
係員「恐縮ですが、履く相手はランダムで決定します。ですが色合いによって履く相手が変わる可能性もありますので皆様には楽しんでいただきたい」
「ふざけんな!相手が選べないって法があるかよ!どんな女子が履くか分からんパンツになれるか!!」
「どうぞやめたければ懲役拒否ということで別の場所に移動していただきますが?」
むざ…むざむざ…
鈴乃助「(汚ねえ…。いや、パンツが汚いというかこいつらのやり方がおかしい。俺たちがちゃんと就職できなかったからって履く相手も選べないパンツにするなんてこいつら悪党だぜ……)」
「いかがなさいますか佐藤様?」
「くそっ… 佐藤!白」
「沢竹!白」
「片鶴!白」
………
ロン毛「全くどいつもこいつもセーフティに白ばっかり選ぶとはな話にならん」
鈴乃助「………(言われてみればそうだが、黒にするのはちょっとリスクがあるっていうか…)」
ロン毛「山崎だが、黒で」
むざむざむざ…
鈴乃助「(いけねっ!俺ねぼけてるぞ!事なかれに白にしようとしてどうする…!白っていったらどんな人間でも履く可能性がある…。一年間は長い…。よく考えたらマイノリティーな黒にしてこそそこそこ見栄えのいい女子が履く可能性がある……)」
鈴乃助「横市鈴乃助…黒で…」
色の選択を済ますといよいよ緊張感が高まってきた。
「ご苦労様でした。私の案内はここまでです」
係員が立ち去り、いかつい背広を着た中年が現れる…。
中川「こんばんは。わたくし下穿き実験第33番プログラム企画部部長の中川と申します」
聴衆「帰れ!ハゲ!帰れ!」
中川「聞け! 全ての聴衆者たちよ。
おまえを恨んでる人間はいないか?
おまえを馬鹿にしてる人間はいないか?
おまえは本当に誰かに必要とされているのか?
おまえを殺してやりたいと思っている人間は本当に誰もいないのか?
私は国力にならないニートのお前らの自由を奪う。私を裏切ったお前達を今度は私が裏切る番だ。これから貴様らにはライトルームに入ってもらう。人間としての体を無くしてもらい、生き地獄を味わってもらう」
係員「ライトルームの定員は5名ですので順番にお入りください」
むざむざむざ…
鈴乃助「何なんだこいつらは…?」

4

「どちらさんすか?」
「市役所・戸籍係の堀田と申します。横市鈴乃助さんでしょうか?」
「ああそうですが」
「下穿き員召集令状を持ってまいりました」
「は……はあ……」
鈴乃助は頭を巡らしていた。
「(なんだそりゃ?待てよ、そういやニートにはそんな制度があったんだっけな…)」
「では早急に準備してください。時間が迫ってます。徴兵拒否は重罪に問われ死…」
「下穿きだと! この俺が…、そんな急に下穿きになれって言われても…」
「集合場所は今夜九時に市民体育館です。では失礼します」
「お、おい…」
一年間人間を止めろという通知が来た鈴乃助は動揺。堀田はあっけらかんと役所に戻っていった。
「(ふう横市鈴乃助か、粋がってそうな人間だな。女子のパンツになって頭を冷やすがいいさ)」

3

「子供のころから散々聞かされたよなー。しっかり就職しないと女の子のパンツにされちゃうかもしれないって」
俺は無事、大学を卒業して市役所で働いている。
「堀田さん、今回はこの配達お願いします」
「かしこまりました。では行って参ります」
懲役下穿き制度。ニートに危機感を持ってもらうために無作為に選ばれた者は女子中学生のパンツとなって屈辱を味わうという制度。この通知は桃紙をもってなされる。桃紙とは,縦15センチ,横23センチの桃色の紙にしるされた下穿き員の召集令状のこと。受け取り拒否は許されず、徴兵拒否は重罪に問われ、非国民として非難される。俺はこの桃紙を配達する業務に携わっている役所の戸籍係で、桃色配達員と密かに呼ばれていたりするわけだ。

2

2008年3月。横市鈴乃助は腐っていた。大学を中退して半年が経ったが、働いたのはコンビニ1週間だけ。『からあげごときに「クン」づけすんじゃねー!!』と店長に怒鳴ったことで首になったのだ。
まだ若いからなんとかなるだろ、と仕事をやる気も失せ、しょぼいパソコン、しょぼい携帯電話で一日一日をやり過ごす日々…。ソープに行ってみても、どうにもその場限りの性交者となるだけで建設的な出会いも特になし。最もそんな行動的で経済的なことは数えるほどしかしてない。ほぼ毎日パソコンでエロ動画を見てしょぼいオナニーをしては人生に絶望しているだけだ。
そんな鬱憤の溜まる毎日に発狂寸前になって近くの女子大生のアパートに忍び込み干してあるパンツを奪うという折り紙付の屑行為をしていた。窃盗行為は死刑になる国であるが、捕まった後のことを考えない想像力の足りない鈴乃助には法律すらも抑止にならなかった。
今日は鈴乃助がひいきにしているピンクのパンツが見つからずしぶしぶ家に帰ったとき、尋ね人がやってきた。
「ごめんください」

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平和憲法下のため、徴兵制が存在しない国、N国。平和、平和、平和…。今の憲法が制定されてからこの国にはつくづく退廃的な人間が増えた。通り魔、自殺者、仕事も勉強もしない犯罪すらも全く何もしない無気力人間など。
こんな屑でございな平和ボケ国家を直そうとN国政府は突如として『世の中を積み減らす』スローガンを掲げ、国民を粗末に扱い始めた。
人殺しでなくとも窃盗(万引き含む)、傷害、強姦、苛め、脅迫をした者全て死刑。性犯罪者は軽くても拷問刑と去勢、差別行為をしたものは拷問刑などとされ、自動車は落ち度の無い貴重な国民を殺す恐れがあるため、廃止。電車は人身事故や痴漢や冤罪が多いため、廃止。(このため仕事先で遠出に出張するのも人力車に乗って片道四、五日掛かる。遠くへ行くのも一苦労)。
さらに政府は『人間は強制されてこそ人間らしくいられる』との見識を持っており、「懲役下穿き制度」を導入した。この制度とは年に数回、無差別に全国の19歳以上35歳未満のニートの中から30名を選びノーベル色情賞を受賞したデニム博士が開発したパンツライトを浴びせて30枚のパンツにし、無差別に全国の女子中学から選ばれた一つのクラスの生徒のパンツとなって一年間懲役させる制度である。