バイトの正しい辞め方(3)

一度辞めたいと思えば
いくら気持ちを高めようと
もう本調子で動けない
本意でない仕事は強制労働と何ら変わらぬ
ただ惰性でやるだけ
今 状況はまるで変わってしまった……


今日も頭にカスミが掛かった状態でバイト……
餃子が七個
俺の働くラーメン店は餃子が七個で二百円以下…
餃子の王将が六個なのを思えば
良心的値段であろう…
味は二の次、三の次…
ただ安いことが売り
そういう店で働いている
餃子を焼く係りを毎度やらされたために
俺はもう餃子を焼くプロといってもいい
今日もいつものように
餃子を惰性で焼いていた
ピーク時、
ふとホールの片づけを手伝わされ
俺は餃子機から離れた
戻ると蓋がしまっており
餃子が焼かれ始めていた
ここで信用してしまった俺がウカツだったのだ
時間が経って蓋を開けると餃子が六個
一個足りないために
焼きなおし………
このために大幅なタイムロス
不満が増加
精神衛生の悪化……!
全ての歯車が狂いだす要因となった……
この餃子不足劇は何故発生したのか………
一つの説は
誰だか知らんが餃子を入れた人物は
餃子を入れることに慣れていなかったという偶数説
世間というのは偶数にこだわりをもっている
三年前、大阪近鉄の消滅騒動のとき
チーム数が奇数の11になることに日本野球機構は危機感を覚え
ライブドア楽天のいずれかのプロ野球チームの誕生を望んだ
もっと簡潔な例は
人間の体でいえば腕が二本、足が二本
指の数にしても片手、片足なら奇数の五本だが
両手、両足を数えれば偶数の十本
これを思えば人間は本能として偶数というものを意識しているといえる
話を戻そう
誰だか知らんが餃子を入れた人物は
餃子を焼くのに慣れていない人物であり
この偶数的本能に駆られ
餃子を六個入れたというわけだ
もう一つの説
わざと餃子を六個入れたという説だ
これは俺を貶めるための巧妙な罠
俺がホールに行っている隙に
そしらぬ顔で餃子六個を餃子機に入れ
蓋をする
俺はホールに行っているわけだから
誰が焼いたか確認できない
その後
犯行者は何事もなかったかのように
ホールに戻り
作業をする
そして俺が餃子機に戻り
蓋を開けた瞬間
狂騒に駆られることを企てていた
俺が餃子を焼く係りだということは
餃子が遅れている責任は全て俺に降りかかる
このことを踏まえて
巧妙な濡れ衣を着せ、
俺を一歩、発狂へと導いた
たとえ俺が
「餃子を少なく入れられた」
………と
騒ぎ立てたとしても
後の祭り
物笑いの種にされるだけだろう
だまし討ち 不意討ち
その可能性も否定できない