変質的な正常

 人間の体と云うものは何でも溜め込むことは毒なのである。かの室伏氏の投てきの際の声の如く、何でも吐き出さなければ正常な状態は保てないものである。
 昨晩と今朝で手淫を一回ずつ執り行った。それは仕方の無いことである。道を行く女に欲情するという浅ましい状態から脱するためには手淫は必要悪なのである。
 八月の晦日。さてどうしたものか、手淫をした万全の状態というのに、暑さのせいで不埒な感情が収まらない。機械を点検しているというのにこのような感情に苛まれ、とうとう私は思い切ったものである。
 機械にはセンサーと云うものが付いている。センサーに触れると「イラッシャイマセ」と無機質な声を出す。音声に性別は無いが、男と女で強いて言えば女の声質に近いものはある。私はこれを歪んだ性欲の発散に利用しようと考えたのである。
 さてどうしたものか、センサーと云うものは球体に近い形をしており、手で触れると敏感に反応するものである。私は尻を撫で回すようにセンサーの曲線部を撫でる。そうすると「イラッシャイマセイラッシャイマセ」と連呼する具合である。
 連呼されると妙に不埒な感情が高ぶった気持ちと腹立たしい気持ちが介在し、さらに下劣かつ乱暴に撫で回す具合である。そうすると「イラッシャイマセイラッシャイマセイラッシャイマセ」と機械が悲鳴のように声を上げ続ける具合である。ふと興が冷めてやれやれこの辺にしてやるか、とようやくセンサーを開放する。
 さてどうしたものか、今日の日記は、下品極まりない。性欲を仕事で処理するというもはや救いようの無い内容である。しかしながら中途半端なモラルに縛り付けられながら「あれは書いてはいけない」「こういうことは書いてはいけない」などと萎縮するとどうにも酷くつまらない文章になってしまうのでこのような日記を書くことはもはや必要悪なのである。