カクテルアーチ

何千、何万という人間が同じ空間で「重量141.7-148.8g、円周22.9-23.5cm」の球に集中している様は滑稽とさえ思えるほど常軌を逸脱している光景である。
野球場。今日の日を待ち望んでいた人々が賑わい、次々と球場内に入っていく。カラフルなハッピを着てメガホンを片手に入っていく者もいれば、仕事帰りだろうか背広を着たサラリーマン風の者も足早に入っていく。
そんな光景を確かめるように見ていた私はポケットからカラフルな前売りチケットを取り出し、係員にもぎってもらい、なんとなくという感じで球場内に入ってみる。通路を抜けるとそれは白く、白いこと。真っ白なカクテル光線に映えた芝、土、フェンス、バックネット、スコアボード、スタンドが飾り付けられた球場を目の当たりにし、自分も一瞬に白く映えて球場の一部となる。
球場に入ったその瞬間、それは綺麗に着飾った女性、それもカラダがほっそりしていて、可憐な首筋であり、虚栄心が全く感じられず、顔に哀愁が含まれており、それでいて目元が活き活きとしており、上品ぶっていないのに高貴な様が電流のように伝わってくる、そんな女性にバッタリ会ったように異様なほど恵み深い感覚が高まってきたのである。


おっと、綺麗事はここまでだ!今回の野球観戦では非常に愚かしい気分になった。どことは言わないが某球団のファンは気狂いが多くて困る。まず、ビジターファンのくせに一塁側内野指定席に陣取っている点が腹立たしい。しかも俺の指定席を勝手に占領しているという点に激怒した。なんとか席をどかしたが、近くにいる連中はメタボ野郎ばかりで口数が絶えないどうしようもない「下品」の一語だ。応援したいなら三塁側か外野へ行けよ屑。そんな屑めらが半径1メートル以内にいることに耐えられるだろうか?俺はムカついて2回裏終了時点で席を立って立ち見していた。そのうち観衆の野次やら馬鹿げた会話が聞こえてきて、野球というスポーツは気狂いの娯楽であることを悟ったため5回裏が終わったらさっさと帰った。