理想のないこと

出勤。例によって実に交通量が少なく、スムーズである。毎日こうだったらいいのに、と思いかけたところで思考を止めた。どうせこの道路も昼間、夕方には休日の嬉々とした人間ばかりになっている。そんな毎日は嫌だ。嬉々とした人間は行きたい麗しい場所、自身の能力を伸ばす場所を分かっている。私はそんな連中が嫌いなのです。恨みは無いが、今は嫌いなのです。
職場に着いて、静まった機械を見た瞬間に気分は灰色。濁りに濁る。やって来る上司の荒れ狂ったハゲ頭を見ればほらもう厭世的な男の出来上がりだ。
出された録茶入りの茶碗。底に沈んだ茶葉の屑を覗き込むとなぜか、もうダメかと思えてくる。
作業に関しては書く気も起きないので割愛。
昼間。研修中世話になった他部署のメダカ部長(仮名)がやって来て、昼食を一緒に取ることとなった。穏やかでスケベな中年である。
「俺は若い頃何度も“辞めろ”と言われたが辞めなかった」「“辞めろ”と言われるのは期待されている証拠だ」「休日はセックスをしろ」「いい店を知っている」「金がないからおごらない」「無料エロサイトを教えろ詳しいだろ!」などとメダカ部長は述べて去って行ったのであるが、まるでおかしな会話だった。無頼漢なのかそれとも単なる放蕩者なのか。とにかくこの人は幸福な老人となることだろう。そして、私は他人の助言を飲み込むのが下手くそだ。助言に救われることは救われるがそれはそのときだけで、すぐに元通りの後ろ向きの思考が一目散にやってくる。何しにやってくるのだろうか。
何時まで仕事だ、何日まで仕事だ、だから今は我慢だ、という思考を繰り返し繰り返し、そんな我慢の意義が解明できず、そうやっていつも作業を終える。
帰る時、照明に虫やコウモリが集っている。宿命に対する諦観がない生き物を力なく見つめて私は帰る。こうやって陰鬱と日々を過ごして行けば、自分はそのうちふとしたキッカケで狂乱して人生を横臥させてしまうのではないかと思う。人生はおふざけなのだろうか。