Love Letter

肌寒い季節になるとこの映画を思い出す。
私は恋愛がテーマの映画にはめったに手を出さない。映画には多数のジャンルがあるが、アクションやサスペンス物のスペクタクル作品に比べるとこのテーマの作品は観ることが気恥ずかしく思えて(「恋愛作品を観る自分」という図式を思い起こすことによる)、このジャンルからは逃亡しがちである。そんな苦手分野の中でも気に入った映画というのがこれである。


渡辺博子が、亡くなった恋人の藤井樹に当ても無く手紙を出すことから物語は進行していく。
手紙、ワープロ、中学の教室、同級生、図書室、手書きの図書カード、自転車置き場、そして白い雪すらもこの映画においては暖かく、ねんごろに描かれている。
…いろいろ感じるものはある。中学生の冷やかし方などを思い出すとうんざりしたり、他人の名前を書くときの神妙な気持ちを思い起こしたり、活字には無い、手書きならではの性質を改めて思い知ったりする。
この映画、初見のときは一人二役である設定を知らないまま見たので混乱したこともあって、設定の摩訶不思議な感じに、感情移入しにくそうだと思ったりもしたのだが、話が進むに連れてこれが骨身にしみる作品だと気づいた。この作品を芸術作品と捉える人も多いようだが、私には映画を評論する知識も何もないので、温かい鍋のような作品と捉えておくことにしておこう。
豊川悦司の関西弁。「邪魔せんとき。今いっちゃん、ええとこや」の台詞。あれは、よかった。
人にはあらゆる事情があるが、つつましい現状の隠れたどこかに幸せがあるのだと、そう思った。


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