第1回キチキチ若年社員の集い

 あいにくの雨の中、金輪は後に乳揉み店に忘れてきてしまう傘を差しながらすたすたと歩き、バスに乗り、ファッションビル前のバス停で降りる。予定の時間にファッションビルの前で待っていると見覚えがある顔が一つある。目が合った。しかし日頃小心が高じている金輪は、遠巻きに観察し、警戒し(何度か顔を見て喋ったか喋っていないかの関係の人間だったので已むを得ない)ようやく声を掛ける。
 その後、定刻を当然のように遅れてくる者がわらわらと集まり、今回は若年社員のみの飲み会ということもあり、若さゆえの勢いを感じさせる面子が揃う次第で、自分の一つ下の入社組がやたら盛り上がっている様相である。
 まずは大衆居酒屋で飲み食い(まあ不味い)、喋ることとなるのだがなんというか会社の内部情報をほぼ全員がべらべらとまくし立て、上司の批判をするという具合である。金輪は勤めているというのに自分の働く会社に一切興味が持てない性質で話題に置いてけぼりを喰らう有様で、さてどうしたものかと(いつも通り)、恩義のある上司の悪口を言ってしまい、後悔する有様で、すぐ会話から引っ込み、食べたくも無い刺身を口に運ぶ所作を繰り返し、同期の吉年(年齢一つ下)には「こういう場はもっと他人と喋るべき」と注意を受けるという有様であるが、人間との対話にちょっとやそっとで興味が持てない性質で、結局、居酒屋後半はほぼ無為に過ごしてしまった。
 二次会の大衆カラオケ店では気が狂ったように歌ってみたりもしたのだが基本的に馬鹿笑いの渦の中、金輪は誰かと喋るわけでもなく、密室で何ともいえない息苦しさをひたすら感じ続ける具合であった。 
 三次会では吉年と10年入社の金田と自分で、ジャンルはよく分からないがともかく吉年の薦めで性風俗の類の店に行くこととなる。金輪は全く性欲がない状態でいやいやと二人とビルのエレベーターに乗り、八、九、三の下っ端風の男に店の前で数分待たされ、入室。
 乳揉みと会話と酒で数十分過ごすといった店で、座敷に入れられ、女が各々隣に一人付き、酒を作り、乳揉み可、舐め不可という中、会話をするという具合である。女は結局一回交代して二人付いた。
 最初の女は肥えた女で、君はあまり目を合わせてくれないだの、こういう店は初めてなの?などと抜かされ、やはり人間と対話することにいまいち気乗りがしない金輪は仕方なく自身のうつ伏せオナニー障害についてを話し出す有様である。そうすると女は興味津々といった様子で熱心に聞き入ってくれる。そうして女が話し出し、聞き流すことも多かったが、射精する寸前で勃起した状態を保って我慢することが大切だと(乳を全く興奮せずに揉ませてもらいながら)、アドバイスを貰い、女が交代する。二人目の女はまあ若そうで細いのだが、いかんせん乳を揉む作業すら疎ましくなった金輪は会話だけでいいや、とラーメン、うどんは好きかと散文的な麺トークを女とたどたどしくする有様であった。
 時間を終え、吉年と金田はやや満足といった表情で「女に触れる程度がちょうどいい」などと繰り返し話し始めた。吉年は一月に一回はまたやろうと面倒くさいことを抜かし、そうして三人は解散し、深夜三時過ぎ、当然バスは無く、タクシーに乗り、気さくな運転手と電力がどうの節税がどうのと、この夜一番まともな会話をして帰宅するのであった。
 この夜を前向きに捉えなければ精神崩壊するのは目に見えているので、『人間社会に対する挑戦はまだ始まったばかりである』と出し抜けに締めくくざるを得ない具合である。