虚仮生活(四)

「目標をめざして努力する過程にしか人間の幸福は存在しない」 
三島由紀夫

 どうもインポテンツの疑いがある金輪は、その軟弱な肉体を三島のように屈強にしたいと思うようになり始め、対犯罪者対策も兼ねて腕立てを開始するのであるが、僅か五回やったところで息切れし、寝込みだす有様である。これは日本男子として情けない限りである。
 このように日頃軟弱が高じている金輪は、そういえば以前「アブトロニック」だとかいう変てこな腹筋マシーンが巷でブームメントを巻き起こしていたな、そうだそれだ、と機械頼みになって検索すると「アブトロニックX2」と多少こう何と云うか進化版みたいなものが発売されているようで、値段も1万円程度とまあまあ。しかしよく考えたら(いや、よく考えなくとも)当たり前なのだがこれは腹筋を鍛えるだけで、腕や背の筋力を鍛えられないものであり、あっさり興味が失せてしまうのであった。
 金輪は筋のことはさておき金を増やしたいと考え出した。頬杖を付きながら、どうにかサッカーくじで六億当たらないものか、と深く考え込むものの、六億当たったところで妙な団体に刺し殺されて海の中に砂跌のように沈められるだろうから別に当たらなくてもいいや、と後ろ向きなのか前向きなのかよく分からない思考をしだし、まあいいや、こないだの続きを書こうと手記(四)を書き出した。

手記(四)

 夜六時過ぎに研修が終わると、基本的に自由時間となり部屋に戻って日誌を書き、洗濯や夕食を済ます。夜九時までは外出も可であるが、外出届を施設の職員に提出し、自転車か徒歩で外出することとなる。仲間同士で外出するのが主だが、ここでも孤独気質を遺憾なく発揮する私は一人、自転車で5キロくらい走って最寄のコンビニや駅に行き、ぼんやりとする。隣駅まで一人で行って街灯の少ない街を適当に中島みゆきを聴きながら徘徊したこともあった。同室のラッシャーに誘われて飲み会に一度参加したが、ノリがエロ話をしながら呑んで呑んで呑みまくるもので自衛隊上がりの人間が数人おり、その飲みっぷりも悪魔的なものがあったので一回で断念した。
 研修の方はボロボロであった。機械操作がなかなか上手くいかず、エンジンをばらしたりすることが難しかった。これは自分には不向きだなと思い、ろくにテスト勉強もせずに研修の総まとめであるテストを受けたらぶっちぎりの最下位。これはもう無理だなと確信した。今これ書いていて多少狼狽するんで早めに切り上げるけども、なぜ転職してないんだろう、と思う(というかクビになってないことが予想外。そこんとこは感謝すべき)。
 ともかく関東での研修を終え、地元地域で研修を再開するのだが、ちらちらと同期をぶん殴ってやろうかと毒づく時期があり、結果、(手は出さなかったものの)衝突して支社本丸中に自分の失態が知れ渡ったらしく、猛省する時期があり、思い悩み精神科へ駆け込んだ。そうして貰った精神安定剤の副作用でふらふらと目眩しながら作業をしてまた迷惑をかけてしまう。
 陰険と狂騒に満ちた入社して最初の三ヶ月はちょっとまだ振り返るのは早すぎたかもしれないと、苦々しく思い出す有様である。