私小説

虚仮生活(十)

十月最後の土曜日、金輪(かなわ)はバスに乗り、電車に乗り、F駅へ向かう。道中、老人の酸っぱい臭いに厭になったり、女子高生の人生を舐めきったようなくちゃべりなどが厭でも耳に入ってきて散々殺意を抱いたり、ぎゅうぎゅう詰めの車内で女性が近くに寄…

虚仮生活(九)

休日の朝はいつだって目覚めるとB級、C級のストレスが纏わりついている。ヘヴンは遠い。 金輪(かなわ)は起きてすぐに、ストレスを発散させるために労働日に我慢していた手淫を立て続けに二回行使し、数時間後にもう一回行使するという暴挙に出て、午前中…

虚仮生活(八)

「何か、最近の、御感想を聞かせて下さい。」 「困りました。」 「困りましたでは、私のほうで困ります。何か、聞かせて下さい。」 「人間は、正直でなければならない、と最近つくづく感じます。おろかな感想ですが、きのうも道を歩きながら、つくづくそれを…

虚仮生活(七)

「Damm! The days go on and on.They don't end. All my life needed was asense of someplae to go. I don't believe that one should devote his life to morbid self-aftention. I believe that someone should become a person like other people.」 『…

虚仮生活(六)

「日本人のほとんどは小汚いものです。この小汚い者達は歌舞伎町で、人間でなくなっても、動物でなくなっても、生物でなくなっても、存在しなくなっても、レイプし続け、暴行をし続けると言っています。存在、物質、動物が有する根本の権利、そして基本的人…

虚仮生活(五)

「くるしい、また一面みじめな職業だとさえ考えている。けれども、この職業以外に、僕の出来そうなものはちょっと考えつかないのである。牛乳配達には、自信がないのだ」 太宰治 (『正義と微笑』より) 僕は(一人称に「僕」を遣うのは久方ぶりな気がする)…

虚仮生活(四)

「目標をめざして努力する過程にしか人間の幸福は存在しない」 三島由紀夫 どうもインポテンツの疑いがある金輪は、その軟弱な肉体を三島のように屈強にしたいと思うようになり始め、対犯罪者対策も兼ねて腕立てを開始するのであるが、僅か五回やったところ…

虚仮生活(三)

「通用しないから行くんですよ」 三浦知良(セリエA・ジェノアに移籍する際) どうもいつも草臥れている様子の社会人の金輪は、あらゆる場所の機械の管理・点検をしているため、各々の機械の鍵を掛けたか掛けてないかという煩悩に常に思い悩まされ、何度も…

虚仮生活(二)

君のような秀才にはわかるまいが、「自分の生きていることが、人に迷惑をかける。僕は余計者だ」という意識ほどつらい思いは世の中に無い。 (太宰治「パンドラの匣」より) もう入社から丸二年が経とうとしているのに、仕事で未だにボルト一本締めることで…

虚仮生活(一)

生きている事。 ああ、それは、何というやりきれない息もたえだえの大事業であろうか。 (太宰治「斜陽」より) 仕事で、とある若い女性職員に優しく応対されると、金輪(かなわ)はしみじみと女体に触れたいと思うのである。そして道路を走る際、若い女性が…