繊細ジャンキー

 朝起きた瞬間は信念がない。時計をみることすら怖い。現実を把握したくない。
 そんな粘土のようにぐにゃぐにゃとした煩悩を「えーい」と固めて放置して、朝ごはんを食べて出勤する。
 今日も午前中は土砂降りで、事務所からジャンパーを頭に被って一人で容疑者ごっこをして、トラックに乗り込んで、運転する。
 「こんな雨の中、トラックで粉塵処理はやめとけよ」と嘱託の人は言っていたけど、仕方ない、上司に命令されてるんだ。一応プチ抗議はしているけども晴れの日が少なすぎて悪天候でも業務を遂行しなければならない。大雨の中、気を付けて運転をする。
 ラジオを聴く。普段、乗ってる軽トラと違ってラジオ付きで有難い。しかし雨が地面を殴打するように降っているというのにしっとりした癒し系の曲は止めておくれ。雨音に負けてるぞー。もっとジャンクな曲でいいんだけどなあ。そのうち、The Policeの曲が続々と流れてくる。いいねえ。「Every Breath You Take」、何百回聴いても飽きが来ない名曲だ。そのうち陳腐な外国人の叫び声が目立つB級歌謡曲が流れてきたので周波数を変える。
 現場に着く。雨が酷いし、どうせ誰も見ていないのでしばらくボーっとする。思えば今年の九月は今のところ猛暑や豪雨、台風で風流の仕草が少ないジャンクな天候だ。繊細な人間には居た堪れない状況。連日のずぶ濡れのせいか頭が痛い、熱っぽい。バファリンもどきを飲む。早めに昼食を食べる。倒れないようカロリーを多く摂するために鮭にマヨネーズを付ける。
 午後になると天気が少し回復し、作業をする。頭痛はあっさり治った。案の定、ぐちゃぐちゃの格好に…。いつもいつも。
 なりたい自分がない人間には、ならされた人間になる道しか残されていない、とつくづく思わせられる。
 作業中、着信電話を見落としていた。着信が課長と同期の吉年(仮名)からあり。吉年くんと久々に電話で会話。会社一激務な営業所にいる吉年は「休みなどあるわけもなく、毎日午前一時に仕事が終わる」と衝撃的な言葉を発していた。何を言えばいいのかと思い、「ただ、健康に気をつけてな」。電話を切る。
 課長に電話。「まだそこか。遅いなあ」などと嘆かれる。雨の中、サボってたとは言えまい。雨の中、外に放り出しやがってとも言えまい。「W市の機械を直しに行ってくれ。簡単な症状だから」と言われる。
 走る。直す。走る。帰社。片付け。準備。退勤。
 繊細だと厳しい。ジャンクな人間にならないとこの仕事は耐えられそうにない。サーロインステーキ、寿司、カツ丼、それから高級メロン、エビグラタン、アイスを手づかみでむしゃむしゃと頬張るようなジャンクっぽい人間を超適当に想像する。今の自分はどれか二つ食べただけで満腹で身悶えしてそう。