十六年前のオチもない話

 小学四年のころ、ユカという目がひらめのように細い女子が同じクラスにいたのだけども、その女子は自分に対して「いつも何して遊んでるの?」「なんでそんなにしゃべらないの?」などとズケズケとあざ笑うようにまくし立ててくる具合である。その頃の私の悩みと云うものは「休み時間に行う氷り鬼の鬼は絶対に嫌だ」とか「あの女子にこんなこと言われた」とか「なんであのデヴいつもあんな感じでキレてんだろ嫌だな近寄りたくないな」とか「この曜日のこの体育の時間にマット運動だけは勘弁してほしい」「風評被害が怖い(当時は風評被害と云う言葉も知らなかったが。あいつ屁をこいた、あいつ泣いていた、あいつだれそれのことが好きなんだぜ的なこと)」とかそんな程度のことが悩みであった。ユカの言動もその一つであった。
 いやだなあ、と何となく思っていたのだが、班変えでユカと同じ班になってしまった。クラスの中では自分は仲間はずれとまでは行かないけども、無口な性質であるため、目立たず、特定の少数の友達に依存している傾向でひっそり小学校生活を営んでいたのだが、ユカと同じ班になったことでそれまで以上に「いつもひっそりして何してんの?」「なに考えてるの?」とかズケズケとからかわれるようになったため、他の班員からも多少こう見下されていた感はあった。六人班だったのだが「みんなのノートはどんなのー?」とかいって一人一人ノートを見せるのだが、自分以外全員ジャポニカ学習帳だったり、国語辞典が自分だけ他の班員と違うメーカーの辞典だったりで「なんだ、あんただけ違うんだ」とか突っ込まれ、妙な疎外感を持った状態、そんなのを未だに覚えている。
 小学四年からは冬にスキー遠足があったのだが、いつもずけずけからかってくるユカはスキー経験者であったため、自分があたふたしていると付き添ってスキーを丁寧に教えてくるのである。いつもからかってくるというのに、いつもと違う様子で、背も向こうの方が高いし、その時は赤いスキーウェアを着たユカがお姉さんのように思えた。とても嬉しかったし、人間っていろいろな面があるんだな、なんかこの雰囲気のこのユカは好きになってしまいそう、ありがとう、などとそんな感情を未だに覚えている。