性癖

 ショッピングコート内の目当てのラーメン店はまだ午後七時台だというのに閉店していた。大したド田舎営業だな、と麺を啜り、炒飯を掻き込むイメージをしていたことを嘆き、外へ出た。そうして近くの黄色い看板のカレーチェーン店の前に行き、入ろうか入るまいか躊躇いつつも仕事終わりで腹が減って仕方が無かったので結局入店する。
 カツカレーを掻き込んでいると女の親子がバタバタ入ってくる。食券選びで親の方が間違えたらしく店員を呼び出し、己の間違えを詫びずに敬語も使わずにかしましくやり取りをしている。
 カツカレーを食べた後はいつも胃が重い。気分転換に飲食をしようにも他の下品な客の様相や食後の不快感によってジリジリとした苛立ちは常に頭を支配する。
 店を出て、駐車場に向かいながらメールを開く。O市ではなく、T市まで来て欲しいとのことである。こちらからすると少し遠くはなるが、特に異存は無いとの旨をメールする。
 夜の国道を走ると異質な感じがする。昼間のごみごみした感じとは違う。仕事でよく使うコースをひた走るも夜と云うだけで光線が行き交い、景色も闇に包まれ、神秘的である。信号待ちで度々メールを見て返信する。ひたすらに国道を走る。田舎の野原に古臭く、照明がドぎつく佇んでいるラブホを過ぎる。対向車線にはうなったトラックが頻繁に走っている、夜の道。こんな用事のときに事故にでも遭ったら最悪だな、と慎重に運転する。
 待ち合わせ場所は、偶然この日の昼飯にも利用した某施設の駐車場である。相手の到着が遅れるとのことで運転席でひたすら待つ。この時のために助手席は既に清掃してある。果たしてどこからどういう風にやってくるのか、そもそもやってくるのか、バックに893を抱えてやってこないとも限らない。しかし一度約束したことは遂げなければならない。
 メールが来る。「どのクルマですか?どのへんですか?」「○○○のナンバーxx-xxです、○○付近です。」
 ミラーを見る。それらしい女性は歩いているだろうか。あれは?違うな施設に入っていった。すると隣に車が停まる。ドキッとするが、男が降りて施設の中に消えた、違う。どこだ?胸騒ぎがしてくる。そうしてブーツのカツカツ音が後ろから聞こえてくる。女性が窓越しに微笑んで手を振ってくる…!清楚な感じでひらひらしたスカート、ハイソックスを履いている(ファッション用語に疎いからこのような表現が手一杯)。兎に角、綺麗な人だ。
 こんばんは、中に入っていいですか?どうぞどうぞ。へえ若そう?私と大して変わらないじゃないですか?希望してた色と違うんですけどいいですか〜。綺麗ですね。お金です。脱ぎますね。
 女性はスカートの中に手を入れ、腰を浮かせてブツを脱ぐ。そうしてシートの脇にブツを置く。するとすぐに女の体臭めいたものが漂ってくる。わざわざ来てくれてありがとうございました。こちらも礼を言う。ではでは、と。女性がお金を持って車を出て、歩いて去っていくのを確認し、ブツを触ってみると、まだぬくとい体温が残っている。これに興奮を覚えつつも、冷静に眺めてみる。なるほどクロッチ部分には妙な液体が付いているではないか。シミになる前の液体を嗅いでみると酷く雌々しい臭いが鼻の粘膜にこびり付いてくる。あの清楚な女性がこんなものを排出しているのかと思うと、奇妙な限りで、さてどうしたものか車内には雌々しい臭いが充満してくる。これに嬉々とした私は昨日のデヴに1万7千を浪費したことがつくづく悔やまれるが、それも勉強のうちである。そうして私は来た道を戻ることにした。