頭に膜の張ったような均衡のとれない不自然な連鎖が訪れ、常に焦点を外れ続けているなと自分で思いながらも、ずるずると蟻地獄に堕ちていく体を自力で支える気力すら失われていた。
過労死や過労自殺といったものの一端をそこに見たような気がした。誰かに相談するとか、バックレるという選択肢は既に溶かされている。これは、もう、ただただ流れの中で破滅に飲み込まれようとするだけなのだ。
電話が鳴れば即仕事という休日なのか労働なのかよくわからない一日の夕暮れ、ネットカフェでネットも漫画も読まずにフードメニューのお品書き一点を凝視して時間が過ぎていた。セルフサービスで持ってきたウーロン茶の氷は溶けており、ようやくストローで吸い込めば水と相違ない液体が喉元を通過していく。
空になったコップを片付けるために、やっとの思いで個室を出てコップを返却口に置き、その流れで雑誌コーナーに行って立ち止まっていると、女子中学生2人組がファッション雑誌を選んでいる。ネットカフェの客層は二十代から四十代の男が多いのだが、カラオケが併設されていたりするとその客層の幅が広がる。
匂い。ボディーソープなのかシャンプーなのか、女子の匂いが立ち込めている。私は気づかれないようにその二人の太ももやくるぶしを凝視し、匂いを嗅ぎ倒し、この日初めて生きた心地を味わった。
これまで私は性欲を満たそうと、使用済みの下着や服を売っている女性からそういったものを買っていた。無論、それは某元お笑い芸人のような非合法な窃盗をして入手するのではなく、双方の合意のもとで合法的な売買を施しているのではあるが、私は物が欲しいのではなかった。匂いが欲しかったのだ。もっと言えばそういった匂いを発する女性に一種の憧れを抱いていた。自分自身が女性的な体になればわざわざ高額な金を渡して女性から下着や衣服を売ってもらう必要はないように思えた。
とにもかくにも私は女子中学生の匂いを嗅いでようやく少し立ち直った。
それからというもの、高校時代によく聴いていた曲を聴くことにした。aikoや爆風スランプなど、懐かしいという感情が自分をさらに立て直すのではないかという期待を込めてaikoの「赤いランプ」を聴いたら効果があった。高校の頃、しょっちゅう聴いていた曲をなるべくじっくり聴いていった。
それから思考力が鈍っているので本を読むことにした。最初は一日一ページすら読むことが困難だったが、一行ずつ読んで、徐々に読む量を増やしていった。勉強は未だに集中力が続かないが読書はどうにかなりそうだ。
人間関係。失った人間関係を気にせず、とにかくもう一度一つずつ積み上げていこうと思った。
自分は変なところを歩いていたようだ。