神無月

日中はまだ暑いが夜の物悲しさは色濃くなりつつある。カメムシが飛び交っていたり…。昔はムシに抵抗的だったが、ムシの寿命の短さや生殖行動の儚さ、滑稽さを学んだりしたせいか最近はあまり抵抗が無くなった。夜は深まり、虫の声も次第に小さくなっている。しかし哀愁ばかり感じてもいられない。カメムシも鈴虫も競争を勝ち抜いて存在しているわけで、その辺の健闘も見習わなければならない。
人間もだ。城の近くを通れば風情のある色白で細長い女性がやたら街を闊歩しており、茶屋で茶を運ぶもの、電柱の工事をしているものがおり、役所前で昼飯を食いに行こうとしている役人風情が甲斐甲斐しく歩いていたり。ボーっと見てればそれはただの風景なのだが、自分にはとめどなく憔悴が浮かぶ風景だった。〝ある〟競争に勝たなければここにもどこにも混じれない気がする。今の自分の存在の不確実さにどう対処すればいいのか。今がわからない。