くだらん! 18-21

本当に下らん仕事だ。まあ仕事なんぞ大半が下らんものなのだが。
どっかに電話して、同じセリフをまるで童貞の呪いを強化する呪文のように永延と述べ続ける。声を普段出していない俺にとっては最初は新鮮であったが、三日目ともなると目の前のコンピュータ機器を叩き壊し、海岸沿いに放置したくなるほどフラストレーションが溜まってくる。のど飴を必死に舐めている。
周囲は若い女じゃなくて腐りかけの中年女性ばかりで休憩中に愚痴をこぼしまくりで、愚痴が廊下に転がりまくっている。休憩をしても休憩にならん。
仕事内容はこうだ。自分の住んでいる地域と異なる地域(おそらく知人などに電話する恐れをなくすため)のある用品店の会員の連中に片っ端から掛ける。そしてマニュアルを永延と話すのだが、日系人が出てきて10分くらい陽気に会話したり、いかつい野郎が出てたりだとか、うっかり喋る気力がなくなって無言電話になってしまったらいたずら音を流されたりといろいろ大変だ。まず喋ることが疲れる。舌が長いからテクニックが必要。携帯電話に掛けるのは非常に面倒だ。固定電話に比べて掛かりやすい、なぜか携帯だけには留守電に吹き込む必要がある、そして若い奴が多い。チャラい奴は呼び出し音がそれ系の音楽になってるから掛かる前から陰鬱になる。なんかさ、飯を作ったりするのは人の役に立つんだろうけど宣伝の電話みてえのが人の役に果たして立ってるんだろうかと思うと馬鹿らしくなってくる。しかし金が欲しいだけだから馬鹿らしくなることが馬鹿らしい。金、金、金。くだらんよな自殺率が高まるわけですよ。
職場では案の定浮いている。雰囲気が陰気であまり喋らないからだろう。多分、どこへいってもこうだろう。俺のミスであれがあれしたらいちいち言われるのだがそのときも変な空気になる。まるで呪いだ。呪いを楽しむしかあるまい。帰りは人と会わない様にわざとエレベーターに乗るのを遅れたりするようにしている。
帰路の道中、バス停でバスを待っていたら、青いビニール地の雨合羽を頭まで着こんだ怪しげな甲本ヒロトに似た顔をした男が(どこの街にも狂人は潜んでいるのだが彼も狂人だったのだろうか)、へらへらと微笑しながら目にも止まらぬ速さで(実際には止まっていたが)、全力で俺の前を通り過ぎていった。何のオチにもなっていないが、いかにも俺の呪いをあざ笑っているかの如く、甲本似は駅方向に激走していった。