それはラーメンでなくうどんであった。無類のラーメン好きの私がうどんの本場、香川県に訪れた動機は、なんとなく無類のうどん好きを演じたかったというのもあるが、単に四国に行ってみたかったというのが本心である。
高松駅周辺はこじんまりとした港町といった感じで、冬のシベリア寒気団に毒される日本海側の物悲しさに比べれば、幾分居心地が良い。しかしながら四国といえど日中の気温は一桁。防寒対策を怠ったことが悔やまれる。
それでも私は此の街を気に入った。
私は社会人一年目である。一人で無計画に鈍行列車に乗るのが好きなのである。一人旅ではけちである。スーパーで飲み物を買い、電車以外の移動手段は徒歩かレンタルサイクル。宿は3000円ほどの「21エモン」に出てきそうな寂れたホテル。そして観光名物に金を出すのである。
業務用のような名前の店へ行くと、セルフうどん形式は最初、わけが分からなかったが何とか会計を済ませる。
コシが強いうどんを啜る。3啜りまでが旨かった。私の舌は化学調味料に毒されている。
店を出てふらふらと散歩をする。
フェリー通りを歩いていると不審な中年女性が声を掛けて来た。
「私は気功と脳の仕組みを勉強しています。手相で血液型が分かります。手を見せてください」
身なりはくたくたのコート、くたびれた自転車で何の躊躇いもなくそう述べてきた。異常な感じがしたが破滅的な思考の私はあっさり手をだした。すると女性は述べた。
「あなたはO型ですね?」
「いやA型です」
お互いに利益が望めない感じである。
懲りずに女性は述べてきた。
「体の調子が悪い所を気功で直します」
そう言うので、それならばと私は胃をお願いした。
二分ほどであっただろうか。中年女性は両手に念を込めて胃の上から気功してくるのである。道端である。
「はい、良くなりましたか?」
「良くなりました」
そうして無造作に去った。勧誘活動者のにおいがしたが、あっさり去っていった。確かに何となく胃の痛みが緩和した気がしないでもなかった。
不審に思われることを恐れて常に行動する私にはこの中年の言動は利益だったのかもしれないが、いやそうでもない気がする。
こんな色気に乏しい月並みな出来事を私は綴るだけである。
・行った場所
森製麺所[番町1丁目10−49]
栗林公園
庭園です。
ローソン高松城東店[城東町1−4−16]
二日目の夕食を購入。
高松パールホテル[西の丸町2番19号]
駅に近い。
ビジネスホテルシャトーエスト高松[城東町2丁目2−7]
駅から少し離れていて、周りに風俗店らしきものがいくつかあった。テレビが観にくかった。