呑み下位

 さて、またしても若年社員の飲み会なぞが開催されるのでこの日は上司の青松の計らいでさっさと退勤し、家でシャワーを浴び、着替えるのであるが、普段、ユニクロのシャツ一枚買うのでさえ億劫な私は所持品の中での私服のコーディネート問題に大いに時間を割き、ようやく決まった頃には考えすぎて汗がびっしょりと滴れており、アクエリアスをがぶ飲みし、飲み過ぎて軽い吐き気を伴う結果となってしまった具合である。しかし焦ることもなく集合場所に向けて路線バスに乗った具合である。
 バスはしばらく走ると県内屈指の進学校の前の停留所に停まり、高校生を乗せるのであるが、毎度彼らは車内に響き渡るほどの狂騒的な声を発することが常である。どうも彼らは路線バスをスクールバスと勘違いしているのか、それとも高偏差値だという驕りからか、公共の場所で騒ぐことに罪悪を一切感じていないようである。話している内容は記憶する必要がないのでしないつもりだったのだがあまりに声がでかいので記憶してしまった。「●●は私のことを見てくれないっ〜〜!!」とか「どこの大学でも行こうと思えば行ける!!」「夢が見つかりそう」などといった恋バナや勉強、夢の話を喚き散らしていた具合である。
 私は虚ろに外の景色を眺めるように努めていたのだが、さてどうしたものかという具合に鼓膜に響くほど狂騒的なので、徐々に殺意が湧きつつ、音源の女子生徒の方を決して直接ではなく、窓ガラス越しに容姿のチェックをさせてもらったのであるが、やはり進学校なので当然化粧っ気はなく、黒髪で眉毛だけは剃っており、ありふれたショートカットの酷く家庭的な顔立ちである。
 そうしたおとなしそうな風情を漂わせ、口を開けば学歴の話をし、ありふれた人間関係のしがらみの話しとなると対象が男子であろうが女子であろうが苗字を呼び捨てにする具合で、いかにもありがちなタイプの学生ではあった。しかしまあ努力者しか入れない高校なのだからせいぜいそこで高尚な知識と教養を身につけ、そして高尚な大学に進み、青春を過ごし、これからも高尚な出会いを繰り返して生きていく可能性が高いのだろう。 ただし、この場において彼らはオレにとって高尚でも何でもなく、ただの不愉快な騒音装置以外に当てはまらないというどうにも詮無い実情であった。痺れを切らし、男生徒には青痰をべっとり吐きかけ、女生徒の胸はつねるように揉みしだいてやろうか、などと訳の分からぬ夢想をしながらも、到着地に着いたのでバスを降りていった具合である。
 集合場所には五分ほど遅刻したのであるが、快く出迎えた若年社員の具合にほっと胸を撫で下ろす。店に入るとこの日参加してない池山が辞意を表明したとの情報を入手する。池山とは入社二ヶ月くらいで問題を起こし、いろいろあった仲であるが、その後は声を掛け合う関係に修復し、何となくな関係が続いていた。話しを聞くとブラック会社勤務の臨界点が訪れたそうで、なるほどとありがちな理由で辞めるそうである。(参考日記:狂人坊主
 酒に酔ったためあまり記憶が定かでないが、若手社員は大体上司の悪口をいい、皆が給料低い、辞めたいを連呼し、どうにもこの会は日頃の鬱憤を吐き出す作業をするような会であった。仕事話の他はパチンカスが多いため、つまらないパチンコの話題が盛り上がっている印象だった。