虚仮生活(六)

「日本人のほとんどは小汚いものです。この小汚い者達は歌舞伎町で、人間でなくなっても、動物でなくなっても、生物でなくなっても、存在しなくなっても、レイプし続け、暴行をし続けると言っています。存在、物質、動物が有する根本の権利、そして基本的人権を剥奪する能力を個人がもつべきです。この小汚い者達には剥奪する必要があります。国連のプレジデントに届けて下さい」
造田博

 金輪はそろそろ精神病院に通院しなければならないと思っている。最近、彼は小さな物音にも恐怖心を感じ、そしてその恐怖心を与える者に対して殺意を覚えているようだ。こういった症状が深刻になりつつある。
 以下、今日の手記。

手記「闇」

 余暇、旅行には結局行かず、安価な大衆理容店へ行く。通常、今日は理容店が休みの日であるが、組合なぞ関係ない安価な大衆理容店はしっかり営業している。外見がどうでもよくなりつつある私は今日も足繁く入店。入ってすぐに「いらっしゃいませー! ○番の席へどうぞー!」と元気よく店員に出迎えられ、10台くらいあるだろうか、席の上に貼ってある番号板を確認して、言われた番号の席に座る。客が混んでいる事もあって、いきなり顔剃りをされる。ぼうぼうに伸ばした髭をさっさと剃りあげる。作業スピードが個人店の比でない早さ。目をつぶりながら顔剃りに集中していると店内から森山直太朗の歌声が聴こえて来る。 
 書くのも疎ましいのだが三年前、不都合な理由で警察に窃盗犯に疑われて事情聴取されたのだが(当時の日記は削除した)、その任意で聴取する前に客の糞婆と店員に呼び止められたわけであるが、その時にアイポッドで聴いていた曲が森山直太朗の曲であった。ゆえに森山氏の曲を聴くたびにうっすらと糞婆を撲殺したい衝動に駆られるのである。
 顔剃りが終わり、カットに入る。暑いので後ろも横も刈り上げだ。どうせすぐに伸びてしまうのでちょうどいい。四十分ほどで顔剃りとカットと洗髪を終えて、千数百円の出費。すぐ近くのショッピングモールに涼みに行く。と思ったが、日曜日なので激混みである。あわよくば映画でもと思ったが、映画館もいっぱい。宮崎勤だか宮崎太朗だかのココリコなんとかという作品の影響だろうか。
 居心地が悪いのでさっさとショッピングモールを後にし、ブックオフに漫画を五冊を買い叩かれに行く。大学教授とかが本棚に無数の本を飾った状態でまんざらでもない顔でインタビューを受ける光景はよく見ると思うが、本は知識を得たらさっさと手放し、新たな知識を得るために新たな本を買うべきだと思う。そういうサイクルをすれば本が部屋に溢れることもなく、知識だけは貯めていける。だから本当に良い教授は大した量の本を所有していない。
 話が逸れた。ブックオフには猫背の童貞臭全快の連中が立ち尽くして本を読んでおり、「このむさ苦しい童貞どもが!」と張り倒したくなったが自分も同類だと思うと狼狽した。本を売り、450円にする。しかし店員もオタっぽい。
 それからコンビニにジュースとパンを買いに行く。学生のバイトだろうが、袋を渡す際もカードを渡す際も手渡しせずに卓上に放置される。あからさまな接触拒否に微かな殺意を抱く。まあこの程度の接客能力だからこの女もコンビニバイトに甘んじてるんだろう、と以前、たかがコンビニバイトを一ヶ月足らずでぶちきれて辞めた俺は頭の中で悪態を突く。(参考日記:コンビニ編)。
 食べながら歩いていると女子高校生が自転車を漕いでいる。正直首から上は眼鏡もあるので十二点程度だが、下半身が安定したムチ加減で漕ぐ際にちらつく太ももの露出の風情を最近評価している私としては及第点は上げたいと思った。合法的に女子高校生の胸や尻を触れる時代はいつになったら来るのか。
 図書館に向かう。自殺、死刑、無差別殺人に関する本を流して読む。自殺する人ってひっそり死ぬから怖いなあと思う。「悩んでいたなら相談してくれればよかったのに」という遺族や友人の気持ちは良くわかるが、相談するという選択肢も浮かばないから自殺するんだろう。無差別殺人に関する本。精神病と犯行との因果関係も描かれていた。通り魔一人を生み出すのも国民一人ひとりが加担しているし、一人ひとりに責任がある。そうした殺人事件などのことを自分とはまったく関係ない別世界だと考えている人間ほど事件に巻き込まれると馬鹿に騒ぎ立てる。本を読んでいる際も階段の上り下りの煩さにいらっとする。
 本を本棚に戻す際にどうでもいいような三十路くらいの女の胸を唐突に触りたくなるが、何とか理性でセーブ。いけない、性欲が高じている。日々の生活に刺激を求めていると、性欲も当然高じている。風俗に行くべきか。地方ゆえにデリヘルしかないのが難点。商売女に単純明快に興奮できるエロ爺がうらやましい。他人と交わっても射精もできない雄として失格の悲惨さも兼ねそろえているため、エロ問題は混迷を極めている。
 暑いのでネットカフェに入り浸ってオムライスを食べ、ウーロン茶を飲み、ソフトクリームを食べて今この手記を仕方なく書いている。

無差別殺人の精神分析 (新潮選書)

無差別殺人の精神分析 (新潮選書)

加藤に関しては母親の異常なしつけがよくなかったと思う。造田に関しては両親がパチンカスなのがいけなかった。いろいろな事件について書いてあったが宅間の詳細はやはりぶっとんでいた。誰に一番近いかというと誰にも近くない。成績だけでいうと高校時代で落ちこぼれて短大に行った点では加藤に近いものがある。発言を見ていると文学的に宅間が異彩を放っている。


池袋通り魔殺人事件無限回廊
宅間守資料