「寒さに負けない方法」

 部屋の中で毛布にくるまってうごめいてしまうことである。
 それが答えなのだが、どうにも生活をするに至っては「外出」という行為が必要に迫られるため、部屋に閉じこもってばかりではならないようだ。
 外に行くにはまず服が必要である。裸一貫で外に出れば、途中で「あのひとあのひと!」としたり顔の市民に通報されて迷惑防止条例違反で捕まるであろう。私はそのような条例違反などで捕まりたくはないのである。強盗などの大罪よりも露出狂の方が世間から辱めを受ける頻度が高そうだからである。
 そうとなるとしぶしぶ服を着ることになるのであるが、まず下着を着なければならない。皮膚を守り、体温調節を補助し健康を維持するためには下着の着用は必然である。ブリーフやトランクス、ボクサーパンツ、フルバックパンティーなど多ジャンルの下着から今日の下着をセレクトし、綿シャツを着て、下着着用を完了させる。そうしてやれやれとせんべいを齧りながら大相撲中継を観る。なんだ、また大関負けたのか、と呟きながら今宵着る服をさてどうしたものかと瞑想する。単純に考えると体が冷え込み、異常をきたすことを回避させるために厚手の服を着ることは確定事項である。そうとなると有無を言わさず全身ミリタリーファッションにするのは私の性癖である。
 着替えてみると私は某極貧国の死んだリーダーみたいな風貌になり、そうして今宵の唯一の外出理由であるコンビニにから揚げ(¥210)を買いに外に出るのである。
 この時期は相撲中継が終わる頃には外は真っ暗であり、電柱も寒々しくアイス棒のように突っ立っている。私はすたすたと歩き、ふと、たまに電柱の側に座ってる住宅展示場の看板持ちのバイトの意義について考えてみる。確かに看板が無ければ展示場へ行く道が分かりづらいのではあるが、あのバイトの看板持ちの人らは雨の日も雪の日もただ看板を持っている状態を保つという仕事をするということに関して疑問は持っていないのだろうか?確かにお金さえもらえれば看板持ちだろうが安倍川餅だろうが関係はないであろう。けれどもわざわざ看板だけのために一人の人間の時間を奪うというのは如何なものか。人を使わずに葬儀の看板みたいに電柱にくくりつけときゃいいじゃないか。と思ったがあれもいろいろ電柱にくくりつける手続きがややこしいのかもしれない。などと話がややこしくなったので、この世で一番やってはいけないことについて考えてみることにした。
 いろいろ考えたが、やはりこの世で一番やってはいけないことは他人の背中に雪を放り込むことである。服と云うのはいわば体を攻撃させないためのシェルターで、それを掻い潜られて背中の襟をえいとえぐって雪の塊を放られることを想像してみて欲しい。十中八九、狂乱するだろう。おそらく普段二枚目で売っている俳優(向井なんとかとか)でも、突如背中に雪を入れられては狂乱するであろう。
 そうこう思考しているうちにコンビニに着いた具合である。私はから揚げを購入する前に週刊誌を立ち読みすることを日課としている。フライデーの後半の卑猥な写真を見たいのだけれども、女性の立ち読み客が間近にいたのでよしといた。
 そうしてパンコーナーでパンを物色するも、パンだなあと思う程度で何の感慨も無く、レジ前にあるファーストフーズのガラスケースを凝視すると、店員はこちらを軽く警戒しだす。憶測だが店員に「(この人はから揚げか、肉まんを買うのだろうか?)」と思われているに違いない。というのも私は数週ではあるが、コンビニバイトの経験があるもので、このようにガラスケースを凝視されると身構えて思考していたことがあるから何となく予測はつくのである。
 そうして私は口頭でから揚げを購入する意志を伝えて金銭を授与し、から揚げを頂戴するのである。売買行為を終結させるとそそくさとコンビニを後にする。歩きながら「(夜の闇に浮かぶコンビニのネオンだけが希望の灯よ)」などと心にも無いことを心の中で唐突に呟き、温いから揚げを食す具合である。風邪を引いて鼻が詰まっているために味がよく分からないのではあるが。