中田英寿 僕が見た、この地球。〜旅、ときどきサッカー〜

ブラジル戦の終戦以来、二年近く経ってどこやら変わった。
三十一歳、旅人中田英寿。この男、抜け目のない男で、世間が忘れ去ろうというタイミングでちょくちょくテレビに出演している。そして、奇妙にいやらしいくらい饒舌な感じで道徳に忠実な素振りを見せており、そこがまた魅力があり、様相の好みも高雅。ただそれだけである。
ちょうど10年前、中田の日記が見たいからという理由でパソコンを購入する人間が少なくなかった。そのくらいあの頃のパソコン普及率は低く、テレビというものをまだ尊重しており、そして当時の中田人気というかサッカー人気ぶりは異常であった。俺は中学一年で初めてオナニーをパソコンを授業で弄りだし、当然のようにnakata.netにもアクセスしてベルマーレだかベルファーレだか忘れたが、スジャータだかペルージャだか忘れたが(強引)、とにかく中田氏に注目し続けていた時期があった。三度の飯より中田の蹴り姿。そんな標語はまったく流行っていなかったが、とにかく中田は多くの青少年、すなわち無内容である人間の憧れであった。
無内容である故に憧れを持ってしまう人間像。孤高とか、潔癖なこのような人間に賛辞を過剰に与えることがいかに滑稽か、そのことに気づくのには時間が掛かった。もう中田に興味を持つことはないだろう。
番組感想。後進国民の苦悶、弱さ、宗教、生活の恐怖、弱者の祈り。そういったものが伝わってくるものであった。しかしながら自分には何も解らず、おそらく日本人のほとんど、中田もそうだろう。世界の状況の解らない様を自慢にするようにテレビで放映するという手段。下世話だがこれも一つの表現。それにしても、中田の知っているのは世渡りの知恵だけで、思想はなにも分かっていないだろうし、こういう番組が何のためになるかは分からない。