ツギオの奴がしくじった

行きたくない心境。あらゆる旅行や飲み会などの外出で部屋を出る出発前、かならずその心境に陥る。しかし、行ってみたら案外、好転することの方が多い。でも好転しないこともある。


ジョージとツギオと自分。頓知の効いた教員と純朴な学生と煤けた社会人。どうにもおかしな三人でまた呑むことになった。最もこの三人で呑むのは今回が最後かもしれない。ツギオが来月から東京都に行くからだ(この三人、「交友」というにはもどかしく、「他人」というのもまた違う。とにかく損得勘定が呑み代のみということで煩わしい人間関係をあまり派生しない、気楽といえば気楽な奇妙な関係である)。
集合場所に向かう駅行きのバス。自分、久々にバスに乗ったのだが高校前のバス停で続々と高校生が乗車してきて、会話がストレートに耳に入ってきて、それが極めてどうでもいいゲームや部活の会話なのでどうしてこうも憩いの学生の会話というのはバカにくだらなく思えるのか、と考え、どんな時代でも文句は一緒だなと感心せざるを得なかった。また、自分の高校の頃はどんなにくだらない会話をしていたのかと思うと、いや、大して会話をした記憶がなく、自省せざるを得なかった。実に無念である。
前に座っていた黒髪のツヤのあるふっくらした女学生が妙に記憶に残っている。

一次会

駅に行って隣接している建物に入ってジョージとツギオに会う。皆、元気そうであった。ツギオは以前の純朴濃度高めの状態からどうにも分別を経験したような顔になっていてさすが新社会人に真剣になろうとしている男は違うとまた妙に感心した(自分?一年前より煤けた表情になっている)。ジョージはいつもどおりメタボリックで、いつもどおり腹も態度も出ている。
しゃぶしゃぶや野菜などの食べ放題コース。バイキング形式である。自分以外は酒も飲むそうだったが、自分は胃腸のことを考えて避けた。
考えてもみてほしい。食べ放題で偏った飲食を犯したらどれだけリスキーか。飽食と惰眠のワールドに嵌ればもはや泥沼、まともな死に方をしない。
オレは今まで甘えていた。まるでなっていなかった。胃腸を労わる気持ちを全く持たず、ただ徒に流し込むように徒に食に挑んでいた。
食べ放題とは甘い遊びじゃない。それこそ配分を間違ったら廃人をも覚悟して臨むべきものなんだ。食べたいものを食べたいだけ食べ、飲みたいものを飲みたいだけ飲む、そんなのは犬、獣のやることだ。人間はバランスを考えなければならない。
肉、肉、肉、ときてサラダというのが素人のやり口だが、まずはサラダ、サラダ、お新香、サラダで攻める。それも水分の少ない系統のものを中心によく噛んで食べる。そして肉。ソフトドリンク。よく噛んで、飲み物は空気を飲まないようにすすって飲む。胃のストレスを減らす食べ方を心がける。腹八分目、いや腹六分目で十分だ。
そしてジョージにダメだしを受ける。運び方の効率の悪さを指摘される。ツギオ、余裕綽々と肉や野菜を他人の分まで気前よく運んでくる。
「金輪際よ、君は学生時代、部屋に閉じこもっていたのか?」
経験値を見抜いたジョージの鋭い指摘。図星だが、
「相変わらず三段腹ですね」
と茶化す。
あらゆる経験が不足しているのは自覚しているが、ストレスを最小限にとどめるため、こうやって売り言葉に向かう買い言葉を積極的に発していった。
お開き。ジョージ全額負担。

二次会

正直行きたくなかったが、一次会で全額負担されて二次会は自分が奢る空気が蔓延してしまっていたのでそんな空気にあえて屈服することにした。
ガールズバーである。
ピンクの照明。ここにきて自分、呑む、呑む。一次会で温存したものを発揮できた。ジョージのセクハラトーク。店員が薦める怪しい酒。盛り上がるエロ話。本当にバカか気狂いのような会話。飲む、ツギオも飲む。よーし延長だ。

ツギオ店内にて吐く。

すまなかったツギオ。久々に気持ちがでかくなってうっかり延長してしまったがために結果的に吐かせてしまった。ツギオの顔色が悪いのは分かっていたが、うまくいかなかった。介抱をされたこともしたことも経験が全くないから背中をさするくらいしかできなかった。許せ。それに比べて店員のテキパキしたおしぼりサービスなどは素晴らしかった。

白けたムードになり帰ることに。1時間半で26000円ちょっと。ジョージが延長をした自分に若干怒りだした。金を取られた経験が足りないとのこと。
メニューでは一人一時間半で4500円だったが、それが店員の飲み代やら別料金のドリンクのせいで膨れ上がってしまった。愛情には毒が含まれている。それも似非なら尚更のこと。そんな当たり前のことを思い知った。16000円出して財布を空にして狼狽した自分を哀れに思ったのか、ジョージが1万円だしてくれた。ツギオは顔色悪く、駅まで送った。まあ別れ際は二人ともまた元気そうだったのでよしとする。

何事も経験であるが、そんなことはもうどうでもいいのである。寝る。


※題名変更