仕事納め

 タイマーが鳴る前、底冷えする寒さに驚かされるように起きてしまう朝が続いている。もっとも私は寝相が悪いらしく、掛け布団を二枚、毛布を一枚被って眠りに就いたはずだというのに、朝になるといつも掛け布団が一枚だけしか残っていない。残る掛け布団と毛布は場外に蹴りこまれており、だらしなく佇んでいる。そうして掛け布団一枚だけで室温4度ほどの状況になってしまっては、寒さに起こされるのは必然ともいえる。
 昨日はしばらくぶりに晴れたものの、やはり今日になって呆気無く物哀しい悪天候に戻っているわけで、なんだかな、晴れる見込みのない暗雲垂れ込むさまは虚しいものだ。昔は裏日本だとか公然と言っていたのが理解できる。
 だらしなく朝の準備を進めて、朝ごはんも食べて、今日は外が凍ってないなと少し安堵しつつ、さっさと車で家を出る。
 道路はがらんどうに近い。普段の土曜の朝よりもガラ空きだ。冷たい雨がフロントガラスに騒然と降ってきて、ワイパーを忙しく動かす。信号が赤になり、先頭で止まる。横断歩道を歩く若い茶髪の女性が視界に入ってきて、こちらに視線を投げかけてくる、と思ってなんだろうと思って目を向けたら、その女性は目を逸らすことなくこちらをガン見している。なぜだろう。自分の顔に韓国のりでもべったりくっ付いているのだろうか、とルームミラーで確かめるも何も付いてない。誰かに間違われたのだろうか。「なんで、どうして」ということは世の中に蠢いているのだけれども、早速今朝もその一抹を味わってしまった。
 会社に着くと誰もいなかった。自分の部署以外はもう休みに入っている。でも同じ部署の同じ班の嘱託の狸さん(仮名・六十越え)はいつも早く来ているというのに今日は遅いな、と思う。その後、事務員の方が到着し、電話が掛かってくる。狸さんの義父が亡くなったそうで、今日は来ないということ。今日は一つの班しか出てこない日なので、現場のソルジャーは自分ひとりで乗り切らなければならないということになる。けれども事情を知った青松課長が休みだというのに午前だけ出てきてくれた。部署は課長さんがほとんど回しているのだ。
 自分も安いカーナビを頼りに行ったことのない場所へ行ったり、午前中でなんとか二件をこなした。霰は降ってくるし、工具は冷たいし、周りは年末の休日で過ごす市民で賑わう中、仕事をするのもまあよいことだ。昼飯を食べに国道をひた走るも、飲食店はどこも一杯だ。頑張れ外食産業、などと思いつつコンビニに入る。家族連れも買い物してる。年の瀬だなあ。野菜ジュースと焼きそばをレジに持っていく。現金とカードを出す。「温めますか?」「はい」。いつもなのだけれど、温め終わるまでの間に耐えられそうにない。どこ見てりゃいいの?どん兵衛のPOPなんか眺めてみる。『どん兵衛で年越し』なんて謳っているけれども、でも実際年越しそばをどん兵衛で過ごす人ってどれくらいいるのだろう?大晦日に夜勤の人とかには結構いそうだけれども。
 そうして袋の中に温かい焼きそばが入れられ、冷たい野菜ジュースが上に乗っけられる。…。この状態だと温かさと冷たさが損なわれて、お互いの商品にとって(惰性で十五年付き合って結婚しないようなカップルのように)不幸な状態なのだけれども、「(野菜ジュースは印だけでいいです)」みたいな気の利いた一言を言えず、「(焼きそばが冷めようが、ジュースがぬるくなろうが、全然気にしませんよ)」みたいな雰囲気を醸し出す感じで「どうもっ」って商品を受け取って店を出た瞬間にあたふたと袋の中からジュースを取り出す。なんだか面倒くさい生き方だなあと思いつつも狭い運転席で変な姿勢で焼きそばを食べる。今日はあんまり美味しくない。
 午後は会社に戻り、特に修理依頼も無く、まったりと伝票整理を手伝うなど。現場もいろいろあるけど、事務員の人も大変だと思うよ。お茶やらコーヒーやら出したり、伝票整理やらお金の処理全般やら、電話で修理依頼を受けたら現場の男たちに連絡し、配置させて、そうして現場から帰ってくる男みんなに労いの声を掛けたり。ありがたいです。
 それにしても先日の部署改革で、えらく悪評だらけの大兵かつ堅物かつ多血漢が部長となってしまい、いったいこれからどうなってしまうのかと危惧している。この部署の空気に先週から不穏なものが飛び交っていることは察知できる。まあピンチはチャンスかな、とも思う。とりあえず今年は体を特に痛めることなく怪我をしなかっただけよかったかな。
 今日は定時で帰ろうということになり、冬の雨降る中、駐車場まで走り、今年も一年お疲れさまでした、よいお年をってね。
 年末も忙しい金融系の方や、年始まで忙しいサービス業や年中無休の工場や郵便局などで働く方はくれぐれも怪我の無いようにお勤めください。どうも皆さんお疲れさまです。