カレー屋

 部内会議を終え、昼時となり、腹が減り、金輪は気分を変えようと車で走る。そうしてカレー屋にやってきたわけである。
 まずドアを開けると食券販売機があり、そこでカツカレーの券を購入するわけである。
 カウンターの一番端に座り、食券を渡すと、なみなみとコップに注がれた冷水を口にし、胃に流し込む。正午を少し回ったあたりだがそこまで席は混んでいないようである。近くの席では苦労人といった髪の量の風貌の中年が、カレーをぼそぼそと食べているといった様相である。
 待ち時間、見上げた場所にあるスタイリッシュなテレビで牧歌的な番組をぼんやりと眺めていると、店にやってきた青臭そうな男の客が金輪の真横に座ってくる。他にも席が空いているのだが、どういうわけか彼の隣に座ってくるのである。その青臭い男は、髪を立たせて黒ズボンにワイシャツでいかにもサラリーマン風情なのは間違いないのだが、ワイシャツに透けて柄のTシャツが浮かんでいる次第である。日頃、ワイシャツに柄Tなぞが透けている人間を甚だ信用していない金輪は、眉間に皺を寄せざるをえない具合である。
 柄Tは基本的に右隣の金輪とは逆方向の左隣の空席に体重を掛けた座り方をしているのであるが、だったらなぜその左隣の空席に座らないのだろうかと金輪は思うのであるが、まあいいかとカレーに立ち向かう集中を施す。やがて柄Tはトイレに立ち、その間に金輪にカツカレーが届く。口にすると実にスパイシーであり、美味である。金輪はやや満足し、牧歌的な番組を見ながらカツをつつき出す。
 そうしていると、長々とトイレに行っていた柄Tが隣に戻ってくるのである。入力するのも疎ましいことであるが、金輪は大便をした人間が、ましてやカレーを食しているときに真横にいると思うと甚だしく食欲が失せそうになるので、なるべく横の柄Tのことは気にせまい気にせまいと念じる。そうすると柄Tの方にもカレーが届き、あろうことか柄Tは、ずるずると音を立ててウガンダの如くカレーを啜りこむ次第である。これには、日頃ウガンダの如くカレーを啜りこむ人間を甚だ信用していない金輪は、心の中でこのウガンダ柄Tに対してとうとう怨念めいたものを持ち出す有様で、これはいけないと、ウガンダ柄Tの存在を急速に遮断し、カレーを華麗に完食し、店をばたばたと後にした具合である。