スパークリングたぬき

 会社近くの交差点には狸の置物が突っ立っている。高さが成人男性の高さとさほど変わらないのでふと見た瞬間は人間か何か生き物が突っ立っているかと錯覚するが、紛れもなく狸の置物である。狸は「交通安全」という襷を掛け、斜め上をぼんやりとした目で向いている。その頓珍漢な姿態を見ると、やれやれもう会社の近くかといつも思う。
 今日は珍しく名刺入れを持って営業もどきのような仕事をすることとなった。相手先の建物に入る程度ですら、死ぬ程怖いものだから、さてどうしたものかとその辺を熊のように行ったり来たりし、この様じゃ社交性の高い人間に冷笑を浴びるな、と思いつつ。
 その日その日、全く人の役に立てていないと自覚する瞬間、眉間の辺りを鈍器で突かれた様な姿態に陥る。こんな姿態を毎日取り続ければ決して自分自身に良くはないことは分かっている。
 だからこそ意を決して建物に入り、案外喋り、口下手にはまずまずといったところか。無事にプチ営業を終える。
 そうしてエアコンを付けるとウォンウォンと唸る外向性の高い軽トラに内向的な人間が乗り込む。いつものように機械点検に回る。仕事。案外、俯瞰で見るとのん気なものである。
 昼頃、点検先にいると、同業他社の社員が颯爽と現れた。会うのは二回目だ。このことは自社の人間には言っていない。
 「こっちの会社は掃除だの点検だの何だの全部一人でやらされるよ。そっちは分業的でいいね。前の担当の奴は背の高い奴で、怠け癖があったからそのしわ寄せがあって大変だ」だの何だのと自分の会社の不平不満を述べ、機械点検あるあるネタなどの話をし、連帯感を持たせるような言葉を投げかけてくるので、こちらもと、意気投合しつつ、それでも余計な情報は喋らないよう戒めつつ。しかしながら苦労人と思しきその中年社員はとても頑張っていると思う。ライバル関係なのに、お互いにまあがんばりましょう、なんてな。