business trip

 金目鯛の煮付け、豚しゃぶのサラダ和え、刺身、里芋の煮付け、味噌汁、御飯、西瓜。旅館というより民宿のような施設。自分たち以外は誰もおらず、晩飯ではやたらと品目が並べられ、ビールを呑みながら喋っていることの半分以上は聴き取れない訛りの酷い、ずんぐり体型の隅さん(仮名。年齢半世紀越え・独身と思われる)とサシで飲食をし、同部屋で寝る羽目になった。その日の仕事を終えた晩だというのに会社の話ばかり聞かされ、せっかくの休息時間が情報収集という面倒な作業の付随した場となってしまう。やたら体臭の濃い中年男性の話を聞いて眠くなってきた。だからビジネスホテルがよかったんだ。
 日中の移動と作業と訛り言葉に疲れ果てて夜9時には寝ていた。案の定、未明に隅氏のナウマン象のような重厚かつ壊滅的なサウンドの鼾が響き渡り、早くに目が覚める。
 薄明かりの部屋を見渡すと戸の鍵も冷蔵庫はおろかゴミ箱すらない。何の生産性もないお前ごときは手淫も許されないこの部屋でも十分だろうと見下され、囁かれている気分に陥る。
 部屋の片隅には大雨と粉塵に塗れた作業服を入れたビニール袋が隠れている。レトロで虚ろな気分に浸りながら携帯電話でyahooを見ると大物司会者が芸能界を引退というトピックスを発見する。好感度がめっきり無くなったから引退するのかと思ったら八、九、三のしがらみが原因だったようだ。テレビで流れてきた映像で最もいらないと思った映像はこういったインパクトのあるニュースの際の一般人の反応。「えーびっくりした」「本当なんですか?」などというディレクターがきっちり編集したようなリアクション映像。冷めてる一般人がいることをお忘れなく。