Sardine

 手淫の周期?
 君もまた変わったことを聞くね。女の人に生理の周期があるから男の人の手淫にも周期があるんじゃないかってこと?
 あるだろうね。精子ってのは寒い冬は精巣という工場が閉鎖気味でさ、あまり稼動してないらしくて、暑い夏は暑さで行為に躊躇いがちになるから、単純に過ごしやすい春や秋の時期が手淫の繁忙期さ。まっ個人差はあるけど自分の場合は初めてやったのが12月ってのもあってこれからの季節は繁忙期だね。
 あなたは普段何を考えているかって?厭な質問だなあ。いろいろだよ、仕事のこと、怪奇現象のこと、時代のこと、性風俗のこと、冠婚葬祭のこと、今朝見た夢のこと、だるいなあ書ききれないな。
 最近はどこかのおっちゃんを見てると楽しいよ。っていや、変な意味じゃないよ。おっちゃんにはあらゆる時代を過ごしてきた経験が如実に外見に表れているわけよ。それがしみじみとするわけよ。
 現在、付き合ってる人?いないよ。仕事での出会い?ないよ。基本的に車を一人で流してて修理依頼があったら機械を直すだけで、社内は9割以上男性だから出会いの無い仕事だと思うなあ。
 孤独が好きかって?好きか嫌いかは難しいなあ。人と付き合うという行為はその付き合う相手を幸せにしたいと思えて初めて行使できる行為なのだと思うけど、自分はそもそも自分自身さえも幸せにしたいとあまり思えてないからね。だから人と付き合う以前の問題だと思うよ。
 ぼんやりとしているとき具体的に何を考えているかって?書いてみよう。
 田園地帯を運転していると、頭の中にテレビで以前やっていた整形に大失敗して顔が三倍くらいに膨れ上がってしまった女の顔が思い浮かぶ。整形前の美形が台無しで、でも食べていくために工場に勤め続けるその女を思い浮かべていると哀しくて耐えられない厭な気分になってくる。そこで顔が美形に戻った想像をしてみる。さらにその女を二十歳くらいに戻して、街を歩かせる。男が群がってくる、好きな男を選んでホテルで性行為をする、快感を得る、女が幸せの絶頂のとき、また顔が三倍に戻る。男はギョッと驚きホテルから逃げていく。現実は哀しい。妄想を止める。車のフロントガラスに虫がぶつかり、汁が漂う。ウォッシャー液を出す。虫じゃなくて人だったら、人生におけるあらゆる(といっても少ない)修羅場で経験した血の気がドン引きするあのパターンの精神状態になるんだろうな、と思う。学生がヘルメットを被ってぞろぞろと下校している。仕事が一段落したのでコンビニエンスストアに入る。グラビア雑誌を読もうとして躊躇してそうして結局、野菜ジュースだけ買って出る。今日もいいことないかなあ。って感じ。