東京五輪まで37日

六年ほど前、三島由紀夫氏の東京五輪の取材メモなるものが発掘されたとのニュース記事が出て、その記事を猪瀬直樹氏に教えたら「これはすごい!」という風な驚かれた返信が来た記憶がある。
尤もそれは「755」というホリエモンが作った(今やオワコンとなった)コンテンツでやりとりしてただけの話である。


『やっぱりこれをやってよかった。これをやらなかったら日本人は病気になる』


1964年の開会式を見ての三島の感想である。当時も五輪反対論者はいたようだが、疫病蔓延の今の比でもないだろうし、どんな時期にどんな地域で大きなイベントを開こうとも必ず反対論者はいるものだ(やれ渋滞や騒音が厭だとかやれ金が掛かるとか云う人間はどこの地域にも確実に常駐している)。
十月十日の快晴の爽やかな秋空、敗戦から十九年、広島出身の無名の若者の聖火最終走者。
多くの日本人にとって、価値観の多様化という意味でも白黒からカラーに切り替わる色濃い節目だったのかと推測される。
当時は様々な新聞社がテレビに負けまいと様々な作家に寄稿を依頼していたことを最近知り、そういった文章を開幕前に購入して読んで今回の五輪と対比したいとは思っている。
残念なのは今回は前回のように有名作家が多く寄稿することもないだろうし、何より残念なのは三島のような作家が今の日本にいないことである。


2021年、かつての秋空とは違い、欧米のスポーツ事情と放映権を鑑みて春や秋でなくスポーツに不向きの真夏の開催、さらに疫病蔓延下のマスク着用で一層蒸し暑い状況となり、円谷幸吉が疾走した東京から遥か離れた札幌を疾走するマラソンなどを想うと、かつての三島由紀夫の 


『やっぱりこれをやってよかった。これをやらなかったら日本人は病気になる』


既に病人だらけの世界で、五輪開催を目の当たりにしてこの感想に辿り着くのは僥倖に近い気もする。
しかし時代の流れを読む興味本意から私は東京五輪に注目してみたい。