休日

休日。首も肩も腰も膝も凝り固まっている。

近所の同年代の男性が経営している整体に行き、少しは体力を回復させる。金銭を介してだがプライベートで会話をする数少ない貴重な人物である。

夏に異動した先の部署の先輩社員の怠慢なのか作為的なのか分からぬが営業同行をさせてもらえず、二ヶ月ほど社内失業状態を味わい、実質的な久々の労働である工場での研修ではやることが限りなく少なく混迷を深め、来週も行くことに躊躇いしかない心中である。

元来、金輪(かなわ)は暗鬱な性格の持ち主で、新しい場所に行くと人との間に垣根を作りたがる傾向がさらに強まる。挨拶するタイミング、作業中に水を飲むタイミング、作業前にトイレに行くタイミング、雑談に花を咲かす連中が鬱陶しい中での退勤するタイミングなど環境に慣れずにあらゆる細かいストレスをも溜め込むのである。

先の先輩社員に関しても「同行させて下さい」とでも言えばあっさり同行して仕事を覚える機会はあっただろうが、それをこちら側から言う気力もないのである。

かつて話に花を咲かせていた前の部署の同僚たちは未だに同じ事務所内にいるにも拘わらず金輪が異動するやいなやほとんど話し掛けてこなくなった。「去る者は日々に疎し」とは云うが所詮、仕事関係者というのはその程度のものだ。

訳の分からぬ先輩社員と前部署との縁の切れ目と新しい環境で労働意欲が低下し、そうして仕事と休日の減り張りが著しく損なわれている。

 

金輪は、奇跡的に結婚して一児を儲けたが、相変わらず職場にもプライベートにも友人はいないし、妻子が実家に戻っている際はひたすら家でスマホやテレビを眺め、本の数頁を流し読みし、Fランク大学生だった頃と何ら変わらぬ怠惰な休息を得ている。

録画していたバラエティ番組を視るも、華やかな芸能人が人見知りを自称しているその様は堂々とテレビ出演を果たしているとしか思えず。その1つの番組で何十万、何百万人に視られているにも拘わらず人見知りを自称するタレントに狂気を覚え、テレビを消す。

今更、自分が有名になりたいとも思えず、M-1やR-1を初戦で敗れ去った時のような自己顕示欲ももはやない。

 

「ただ、いっさいは過ぎていきます」

太宰治人間失格で遺した言葉。これ以外に頼る言葉は今はない。