仕事ができないブルーカラー

 朝起きて土砂降りの中、会社に行く。ラジオ体操。手足の運動、頭に思い浮かぶ軽快な動きとは違う。貧弱なタコのような手足がパタパタと動いている感覚。右手が壁に当たる。スペースが狭い。会社は高速道路のインター近くにある。遠くからクラクションの音が聞こえる。くそ、今日も湿気に体が押されてるな。
 差し出された麦茶をぐいっと飲み、朝のミーティングが始まる。昨日、団体職員に言及されたUの地点の機械にまた不具合があったそうだ。午前中に向かえとのこと。それから13時までに昨日に引き続き70キロ離れた町工場に小屋を取りに行くミッション。
 まず最初に昨日積んだ軽トラの荷物を地べたに置く所作。フォークリフトを使って(免許有り)置こうととするも青松にだめだ、そんなんじゃだめだ、何やってんだ、グズグズするな、力がなさ過ぎだ。汗がどっと出る。
 ファイトファイトファイトと頭で呟くも体にまとわりつく暑さと円滑に行えない所作に焦り、呆気なく心の中の闘志は押し黙らされる。そうしてUの地点に向かう。会社から30分弱で到着。草の茂みが多く、虫が沸いている。発酵した茶色く濁った粉塵の鼻を突く臭い。どうもタンクのとこから粉塵が漏れているらしいが、詳しくは分からない。画像を撮り、テープで応急処置。
 再び会社に戻り、準備をして70キロ離れた町工場へ。高速道路。ガソリンの節約のため、窓を開けて走る。凍らした水の入ったペットボトルが残り少なくなってきた。仕事のことだけを考え、他の煩悩は消えうせた状態で運転する。途中、サービスエリアで休憩。平日でもいくらかの旅行者はいるものだ。のんびりソフトクリームを食べながらゆっくりくつろぐ老夫婦。手を繋いでレストランに入る学生風情、ゴミ箱の前に芸人の鈴木Q太郎のようなロン毛で女装をした男が突っ立っている。そんな風景よりも仕事のことで頭がいっぱいだ。汗で湿ったツナギを風に当て、自然乾燥させる。7月1日から部署を異動する連中が会社内で蠢くようである。オレは案の定、窓際部署で現状のままであるが、激務部署でぼろくそ言われて自主退職をする様があっさり頭を駆け巡る。そもそも今の部署においても…。などとネガティブになっていた。
 本線に戻り、走り続ける。ほとんど追い抜かれる。追い抜かれて、追い抜かれてその先に待つコンビニのトラックを追い抜く。昨日と同じ風景が迫ってくる。時速90キロほどで移動。窓からの湿った風が重く体にしがみ付き、地底にでも連れて行かれるような感覚。
 隣県の部署のクマダさんに電話。正午過ぎに到着しますので、インター付近で待ち合わせましょうか、大丈夫ですか、わかりました。穏やかでゆるい感じの電話を済ませた。もう少し走る。それにしても今日も何百台も走っていてよく事故を起こさないよな。少なくともオレが重大と云うレベルの事故を目撃したことはこれまでない。他人から車でぶつけられたこともないし、車でぶつかったこともない。どちらが先か賭けをしている。今年免許の更新だが、昨年一度信号無視で捕まったのでまた青い免許だ。
 インターに到着する。ほどなくクマダさんと合流し、町工場へ向かう。クマダさんは初めて会う人とでもすぐに打ち解ける様子。オレは今日で町工場に来るのは二回目だがあまり喋らない。積荷をする。機械盗難が多いという話。中国人の素人だろうという何だかプロファイリングともいえないようなおおよその容疑者像はできているらしいが、依然捕まっていないらしい。積荷をして町工場とクマダさんとは別れる。また高速を走る。今度は時速80キロ以下。追い抜くことは一度もなく、バンバン追い抜かれる。わかりきった風景を眺めながら小屋設置場所へと向かう。わかりきった暑さが心身をへばらせる。望みは労働を終えた後に冷水をゴクゴクと呑むこと。それ以外何があるっていうんだい。
 頭の中をぐにゃぐにゃと歪ませて小屋を設置させる場所で労働。ペットボトルには小さな氷の塊だけがあり、水はほとんどない。これからすぐに液体へと変容する氷を眺めていると儚いものを見ている感覚になる。
 作業をしていると、リタイヤ組みの年金受給老人達がぞろぞろと横切っていった。彼らは何がしたいのだろうか。ガラス窓に汗びっしょりの自分の姿が薄く確認できる。体温、血液、臭い全てが不快な季節だ。低能力なりに作業を終え、会社で明日の準備を終え、退勤をする。帰り際、「進歩がない」と青松に言われる。図星である。部署内には不協和音が響く。夏の窓際には不気味な虫たちが集う。明日もよくわからない。