日誌

【天候、最高気温/最低気温】
(雪時々曇のち一時晴、4℃/-2℃)


 大雪。朝起きて雪がびっしり降り積もっている時点で仕事に行く気が失せる。今よりも酷い降雪で融雪装置も無かった昔を乗り越えてきた先人の忍耐力には恐れ入る。
 毛細血管の隅々まで血が通うように、道行く木々には小枝の先まで雪が積もっており、それを横目に動脈硬化を起こしたような自動車の重度の渋滞が巻き起こり、私は十五キロの距離を一時間掛けて出社した。
 本日は金属工業が盛んな市へ。朝方は国道も雪でガタガタだ。何とか現場にたどり着いて作業を施す。 
 昼飯はこの地域で有名な野菜ラーメンを売りとしたチェーン店へ。野菜ラーメンの味噌味を啜る。クドい味、残念。次回はバター風にしておこうと思いながらも啜り続ける。カップルが近くの席に座る。甘ったるい会話だ。耳障りである。妙に腹立たしくなって連中に冷水と熱湯を交互に浴びせたい気持ちが芽生えてしまうが、平和的な表面を取り繕っている私はもくもくとクドいラーメンを食す。
 午後も機械点検。ふと思えばこの商売での顧客は老人ばかり。若い女性が全くいない。社員も九割方男であるし、職場恋愛などまずありえない。このままこの仕事に居座り続け、建設的な趣味も持たなければ私は一生結婚できないと確信した。それは困る。マイホーム暮らしくらいはしたいよな。
 この仕事、基本的に人と喋らなくてよくて、黙々と機械点検修理をしていればよいわけで、案外自分の性には合っているような気もしてきたが、どうしたものか、老人ばかりと喋って若い女性とどうやって喋ればよいか忘れてしまった。困ったものだ。運転していて道端を歩いている者を見ても老人ばかりだ。「BELIEVE LONDON」とか書いてある、どう見ても子供の使い古しっぽいジャケットを着た老人を見て、俺はどうやってこの地方で、人と出会って建設的な人生を送ればいいのかとぼんやり考えた。
 会社帰りに眼鏡屋に寄る。今月までに買えば五千円ほどでメガネを買えると云うハガキが着ていたのだが、極限まで行動しない私は、キャンペーン最終日の閉店一時間前にようやく入店した。しかしすぐに、閉店一時間前に眼鏡屋は何か迷惑だったかな、と弱気になる。やたらスピーディーな口調で話す女性店員の雰囲気でそう思ってしまったのだ。残業確定じゃねえか、みたいなことを思われていたらどうしよう、とか客の立場なのに余計なことを考えてしまう。そして自分の風貌もよくない。粉塵塗れになった仕事を終えて、慌ててとりあえずは着替えたもののまだ何か体が粉っぽい気がする。それもジャージ姿でブーツを履いてだらしない風貌だ。気にしすぎだ。
 目を測る。相変わらず店員さんはスピーディーな口調で指示をしてくる。十五分くらい目の検査をしただろうか。その後、五千円のメガネ選びを開始する。決められた範囲内の中で選ぶのであるが、流行の黒縁メガネは自分の中ではないなあとか思いつつ、紺色の縁のメガネを見てああこれだなこれがいいやとインスピレーションが働いて三十秒くらいで決まってしまった。別に店員さんに急かされたわけでもなんでもなく、そのメガネ以外ありえなかったのだ。コンビニ弁当選びだと値段と味をにらめっこしながら三分くらい時間を掛けるが、今回は同じ値段の中から好きなものを選べばよいという状況だったから三十秒で十分であった。これください、冷徹そうな店員さんがやたら表情を崩して、早いですね、と驚いていた。
 自分のいる牧歌的な会社にいると砕けた笑いが多いのだが、眼鏡屋の雰囲気ってのはどうも店員さん全員メガネを掛けていて、雰囲気が無機質と云うか、今日あったのが「何を見ているんですか」と男性店員が自分が見られていると勘違いして女性店員に述べると、五秒くらい間が空いてから女性店員が「そこにある時計見てるんです」とかそっけなく返して、その後会話は途絶えたまま、みたいな。眼鏡屋はめんどくさそうだけどシュールで面白そうだなあ。でも接客業だからめんどくさそうだ。
 そうしてさて帰ろうかと云うときにコーヒーを出されて、「ごゆっくりどうぞ」とか言われたのだけれどもこういう台詞を言われるとどうもゆっくりしてはいけないんじゃないか、と裏を読んでしまうのが自分の駄目なところである。コーヒーをガブガブ飲んで、私のようなものでもしっかり見送って頂けて、「どーもぉ」と無感情ながらも声を出して、結局私は三十分くらいで眼鏡屋を後にした。
 その後、温もりを求めてマクドナルドへポテトを買いに行った。道路が凍っていて曲がる時に若干スリップした。鼻水が凍ったら鼻氷と云うのだろうか、とかなりどうでもいいことを考えながら帰宅した。