日誌弐

 朝方、自身の不器用な人生をなぞるかのようにホテルの安っぽい剃刀で慎重に顔を剃った(案の定、失敗して少し血が出た)。普段あまりつけないムースも髪に当てた。眼鏡もコンタクトにした。もう会うだけであった。
 メールで人と親しくなった。けれどもメールだけの付き合いから実際に会うに至る変換作業は緊張を要する。

 神社の前にある像は口髭を蓄え、角張った余裕のある威風堂々とした顔をしていた。私もこのような態度を取れる人間になりたいと思った。するとワンピースの出で立ちで、メールで教えられた柄のそれを着た女性は小走りにやってきて、メールで教えた目印の袋を抱えた私に声を掛けてきた。
 遅くなってすいません。いえいえ、お仕事大変なのにすみません。
 会話が始まった。私は最初何を喋ろうかとかそんなことを考えていたことがどうでもよくなり、流れに任せることにした。
家庭的な顔立ちで優しそうな色白の小柄な女性と私は神社で会った。そうして蕎麦屋に出向いた。
店に入る。席に座る。お冷やが出される。
「昨日はどこに泊まったのですか?」
「○○ホテルです」
「そこ前に私が勤めていたホテルです!」
「そうなんですか」
ワンピースの柄と色白の肌がマッチしている。
気が付くと、自分が過去の女性と話していた頃よりも多く喋ろうという気になっていた。向上心である。大学で何を専攻してただとか、今の仕事のこととか。しかし口下手には限度があった。
早く蕎麦来ねえかな、とうっかり思いながらお冷やを少しずつ啜っていた。焦りはいけない。私は女性と一緒に過ごす時間を大切にしなければならない。

正直に申し上げます。私は王子になりたいのです。私は地方で独身で毎日自身の存在意義を探して、もがきながら生活している人の王子になりたいのです。貴女は必要な人間だと訴えかける王子でありたい。自分と同じ立場である人を救いたい。。


蕎麦が来る。二人、啜る。古風な上品そうな女性だと思う。食べ終わり、店を出る。
歩く様も素敵だ。欲情を隠し、誠実であることに真の男の美しさがあると私は信じている。
そうして女性の車の助手席に乗せてもらった。