牛丼パニック

 昨今はやり過ぎというくらい暴挙的な安値で売られている牛丼。そんなことだから店にはいろんな客がやってくる。ダメリーマン、弁護士、ヤクザ、ホモ、チンピラ、ホームレス、キチガイ、囚人上がり、無銭飲食者。
 帰宅途中、某牛丼チェーン店に寄ろうとしたら、高校の野球部員と思しき連中がほぼ全ての席(30席くらい)を陣取っているではないか。こんな光景は見たことがない。もはやマスゲーム的牛丼店と成してしまっている。躊躇して引き返しているおっさんがいたが、私は面白そうなので中に入ってみた。
 すると、性欲の掃き溜めのような空間と化してしまった店内では色黒の坊主一人一人が特盛りを二杯ずつかっくらっている。申し訳程度に大学生風の男二人がカウンター席にいる以外は全ての席が坊主頭だ。トレーナーを見ると聞いたことがない名称なので、県外から遠征に来たのだろうか。
 さて、空席も無く、どうしたものかと、私は仕方なく持ち帰りコーナーに出向く。店員がてんやわんやといった様相でもぺちゃくちゃと喋りながらかっ喰らう坊主達。はっきり言って少年刑務所の食堂に来た気分だ(刑務所の食堂は喋らないだろうけど)。
 彼らは店や客に迷惑が掛かるから少人数ごとに違う飯屋に行こうとかそういうナイーブな打ち合わせはしなかったのだろうか、いや、しなかったのだろう。
 何だか無性に腹ただしくなるのは、そもそも新聞社主催の大会を目指しているというだけで特権的に野球部がフューチャーされると云う風潮が気に食わないのだ。地方大会の一回戦からテレビ中継されるとは、卓球なんぞ全国大会の決勝が教育テレビで中継されるか、されないかのレベルだというのに。
 牛丼で思い出したが、中学の修学旅行のとき、別の班だが、野球部員らとおとなしい女子という班があったのだが、何を思ったのか野球部員は自由行動の昼飯を吉野家へ行くと言い出していた。当時地元には吉野家もまともになかったから貴重といえば貴重であったのだが、その話を耳にした私は、おとなしい女子に牛丼なぞ食わすな!と陰でイラついていた記憶がある。それも自分の班は性悪でブスな女子が二人いたということもあり(男子班、女子班の組み合わせ抽選を自分が引いていればまだ諦めもつく話だったが、当初オレが引くはずだったのに同じ班員の浅井という木偶の坊が勝手にクジを引いてしまったために最低な班になってしまったのだ)、怒りは膨れ上がる。
 中学三年のときはそんな修学旅行から始まり、高校受験を除く、全てがうまくいかなかった。クラス替えの発表の瞬間から不穏な空気を感じ、クラスメートに喋る相手もおらず、訳のわからない養護学級レベルの奴といやいや交わったり、周りからも変なクラスだなと言われていたが、あのクラスは嘲笑う奴が多い最低なクラスだった。同窓会のお知らせが来たら破り捨てる準備はできているのだが、同窓会のお知らせは一向に来ない。
 などと思いながら、牛丼店を後にし、ユニクロカップルが一緒に服を選ぶ様を疎ましく思いつつ、シャツを買い、帰宅した次第である。
 はっきり言って今よりも酷い時代が二回はあったので、今の状況は案外マシなのである。